2022年8月11日

アメリカの中学校:学校探し編

2019 年にイギリスからアメリカに引っ越した際の中学校の選択について述べる。
中学校の様子については、次回のブログで述べる。
アメリカの中学校といっても多様だ。ここで述べることは、私が住むバッファローの、その中でも私の例に過ぎないことをあらかじめことわっておく。
なぜ中学校? それは、私の子どもはまだ中学生なので高校のことは分からないし、小学校より中学校の方が言いたいことがあるからである。

移住にしろ駐在にしろ、子どもの学校探しは、多くの親の関心事だ。
イギリスの大学を辞めてアメリカに引っ越すと決めてすぐに、学校を探し始めた。
私には一つの強みがあった。
それは、イギリスに5年間住んでいたことである。
アメリカとイギリスの間で、学校探しのこつは似ているだろうと考えた。
それは当たっていた。

イギリスやアメリカに住む多くの家族にとって、学校探しと家探しはほとんど同義だと思う。
日本の都市ならば、まず中学受験や高校受験(小学校受験でもよいが)という制約がある。
私は中高公立なので、自分としてはよく分からないが、少なくとも東京23区や周辺地域に住む多くの親は、そう考えるようだ。
なので、引っ越しと受験の相対的なタイミングについて考えるだろう。
また、電車でまあまあ遠くまで通学できる、と考えるかもしれない。なので、家があって、そこから行きやすい範囲の良い私立中高(あるいは、国立や、最近だと中高一貫型の都立など)を探す、ということがしばしばある。

イギリスでは、少なくとも私の職業では、子どもを私立に入れるのは基本的にありえない。学費が年に300万円とかするからである。私立中学校によっては、すごい成績優秀な数人は学費が半額免除になるなどの制度があるが、半額でも私にはかなり高い。
子どもが1人で親が共働きだったり、私が稼ぎがよい一流企業の会社員なら可能だろう。しかし、イギリスの大学教員それだけでは無理だ。
アメリカでは、学費はざっと見る限りではイギリスよりは安いようだが、やはり高い。日本の私立中高よりはイギリスの私立学校の学費額に近い。やっぱり無理だ。

したがって、私立は一瞬にして私の視界から消え去った。
では、公立の学校の良し悪しは何で決まるのか?
イギリスでは、主に地域で決まる。良い地域の学校は良く、悪い地域の学校は悪い。
良い地域の学校の家は、買っても借りても高い。

アメリカは? だいたい同じだろうと考えた。
そもそも、良い学校とそうでない学校をどうやって見分けるのか?
イギリスでは、Ofsted という「公式ランキング」がある。
アメリカでも何かあるだろう、と思って探してみると、あるある。
公式ランキングではないが、小中高の学校をランキングしている様々なウェブサイトがある。
これらを参考にしつつ、また、未来の同僚(元からの知り合いだったり、私の就職面接で知り合ったりした)にも尋ねる。
その結果、比較的簡単に、2つの中学校が浮かび上がった。City Honors という学校は、バッファロー市の中心部にあり、地域のトップ公立校である。私の同僚の多くも、この学校に子息を送っている。もう1つは、郊外にある Transit Middle という中学校である。

なぜ中学校で見るのか?
中学校でなくてもよい。ただ、中学校+高校で考えるのがよい、というのが私のイギリスでの経験知である。
というか、イギリスでは、中学と高校が一体化している部分があるので、あまり区別がない。ただ、小学校よりは中学+高校が大事だろう。
結局は良い大学に行けるかどうかを気にする(日本もイギリスもアメリカもこの点において、似ていると思う)ので、日本でもそうであるように、小学校より中高を気にするようなのだ。

では、この2つの中学校の違いは何か。
City Honors は、遠くからでも入学が可能。一方で、入学選抜試験がある。
Transit Middle は、入学選抜試験はない。ただ、ランキングだけを見ると City Honors よりは若干劣る。
私は、Transit Middle(と、そこから自然に進学する高校)を選択した。
入学選抜試験を嫌って Transmit Middle にしたのか?
それは少し当たっている。
というのも、仮に長女がその選抜試験に受かったとしても、次女や三女が受かるとは限らない。次女や三女が落ちた場合、学校の選択が面倒だ。市の中心部には、実は、City Honors 以外にはあまり良い学校がないとしばしば言われる。

そもそも、Transit Middle は、受験がないのになぜ良い学校でいられるのか?
イギリスの場合と同様に、そこだけ地価が盛り上がって、教育熱心である傾向がある家族が多いからだろうか?
それは少しはあるが、一番の理由ではない。地域で一番金持ちな地域は、実はこの学区域ではない。
理由は、学校税である。
この地域に住むと、住民税の他に学校税を徴収される。
学校税は税金にしてはかなり高い。年に50万円や100万円なのだ。
ところが! この数字にひるんではいけない。実は得なのだ。
学校税は、住宅価格で決まる。
子どもがいてもいなくても、そこに住んでいれば、学校税を払わなければならない。

我が家には、子どもが3人いる。しかし、学校税は3倍にはならない。したがって、この高い学校税を払う方が、我が家にとっては圧倒的に得なのだ。
年に100万円だったとしても、3人で割れば年に33万円なので、悪くない。
いっぽうで、子どもが1人や0人の人にとっては相対的に損だろう。
この学校税には2つの効果がある。
1つ目は、お金が学校の運営のために使われることである。サービス等がそれなりには良い。いわば「プチ私立学校」だ。
2つ目は、イギリスで私が学んだことそのものだ。学校税を払ってでもここに住みたい人しか住みに来ない、という効果だ。
この2つ目の効果は大きい。それでも、この地域の高校に行けば、生徒がトイレで麻薬とかやってるらしい。日本の高校で言えば、学校で煙草を吸うようなものだろう。とはいえ、全体感覚が大事。全体的に見れば、大学への進学実績や高校でさせてもらえることなどを聞く限りは、まあ良さそうだ(まだ娘が高校に行っていないので分からないが)。

これらのことは、イギリスに5年住むと予測可能だった。日本からいきなりアメリカに引っ越ししていたとしたら、経験がないので、 予測不可能だっただろう。
ここまで決まれば、あとは簡単。学校の学区を調べて、学区の中に家を借りる(いきなり家を買うことはためらわれたので、最初は賃貸にした)だけだ。
イギリスの場合には、学校に各クラスの定員が厳密にあるので(30人)、目当ての学校の近くに住んでも、子どもがその学校に行けるとは限らない。
アメリカの場合には、学区内に家があれば、子どもはその学校に必ず行ける。日本と同じだ。
なお、イギリス対アメリカ、と対比するのは間違っていて、アメリカでも州や地域によって異なるだろう。ここで述べていることは、ニューヨーク州のバッファロー近辺限定で通用すると思って頂きたい。
州や地域ごとの学校関係の制度の違いに加えて、アメリカでも、大都市に行けば、住宅・学校事情がバッファローとは随分異なるだろう。

イギリスでは、良い学校の近くでは地価がべらぼうに高いのが、私には厳しかった。
大学教員の給料では手が出ない。
バッファローでは、そこまで高くなかった。
2019年当時、住宅は特には高くなく、助かった。しかし、2022年現在では、不動産価格が上がってしまったようだ。多分、全米的な現象だろう。子持ちでうちの大学に異動してくる新しい先生方も苦労している。

かくして、Transit Middle 中学校、および、望みの小学校と高校の学区内に賃貸を決めることができた。
子どもの学校問題が、アメリカに引っ越しするより前に解決したのだ。
これは、同僚の情報(ありがとう!)、および、私がイギリスで得た経験がバッファローにも首尾よく活きた結果だ。