2016年3月8日

教授になりたい人は自分で手を挙げる

助教 → 講師 → 准(じゅん)教授 → 教授

これは、日本の大学教員の典型的な職階である。特任、特命、専任、テニュアトラック、といった修飾語が前につくと意味合いが変化するが、細かいので触れない。

イギリスでは

Lecturer(=講師) → Senior Lecturer → Reader → Professor(=教授)

が典型的だ。最近では、アメリカ式に合わせて、真ん中の2つを統合して Associate Professor(=准教授)にする大学も増えている。

さて、昇進するためには2つの標準的な方法がある。

(1) 他の大学に異動して昇進する。
(2) 自分の大学の中で昇進する。

今回の本題は (2) だが、まず (1) について説明する。

社内異動という言葉がある。なので、「異動」と言うと、大学関係者以外の方は、社内での配置換えを思い浮かべるかもしれない。ここでは、そうではなくて、例えば大阪大学の助教や講師だった人が九州大学の准教授になる、という状況を指す。大阪大学と九州大学は別の「会社」だ。したがって、普通、こういう異動は社内異動のように上からの命令によって起こるわけではない。人事公募に自ら応募したり、あるいは相手大学側に一本釣りされたりすることによって (1) は成立する。イギリスも同じである。選択基準は日本とイギリスでかなり異なるけれども。

さて、(2) の昇進はどうやって起こるのか。

日本:首を長くして待つ。
イギリス:自薦。

イギリスでは「オレ教授になりたいです」と自ら手を挙げるのだ!
これには驚いた。

日本では、次に誰を教授に昇進させるかは、例外なく現職の教授達が決める。
准教授の人が、「そろそろ私を教授にしてくれませんかねぇ」とか言って教授(陣)に掛け合うことは、自分の理解によればご法度中のご法度である。なお、上記 (1) の昇進を狙って他大学の教授公募に応募を出すことは、特に問題ない(ただし、「それも良くない」と言う大学人もいらっしゃるとは思う)。

私の大学では年に1回昇進シーズンがある。「オレ教授になりたいです」という人を審査するのだ。自分の広い意味での業績を 20〜30 ページにまとめ、審査書類として提出するらしい。今までに発表した論文の説明に加えて、研究費獲得状況、教育実績、大学の業務経験なども書くらしい。単なる羅列ではなく、良いエッセイでなければいけないらしい。その提出書類に基いて、学部外の審査員も含む審査会が、昇進の可否を決める。

日本の大学関係者は、ここで多分大きな疑問を1つ抱く。

「でも、教授の定数は決まってるでしょう?」

そう、日本の国立大学では A 学科は教授 6 人、B 学科は教授 11 人という風に、厳格に教授の定数が決まっている。この定数を増やすことは困難だ。何々大学が新しい学科を作りました、というニュースは時折あるが、教授の定数が湧いて増えるわけではない場合がほとんどだろう。その分、関連学科が教授枠を供与したり、1人の教授が2人の学科(=元の所属学科と新設学科)を忙しく掛け持ちしたりしているのだ。

注:正しくは、「国立大学」→「国立大学法人」、「学科」→「専攻」などなどだが、読みやすさを重視して単純化した。

ブリストル大学の私の学科には、去年の夏まで教授が7人いた。
日本の常識だと次のようになる。
もし「教授定数 = 7」ならば、誰かが辞める(定年退職の場合が多い)か、大学内の他の場所から教授枠を相当うまく引っ張って来るか、助教枠を 2 つつぶして教授枠 1 つに振り替えるとかしない限り、誰も新しい教授になれない。

ところが、こういったことなしに、8 人目の教授が秋に誕生した。

教授定数、なるものは存在しないのである。

上の人曰く:

「確かに、みんながみんな教授になったら困る。でも、定年退職とかで減りもするから長い目で見れば大丈夫だよね」

なるほど。