2020年2月26日

進路相談

拙著「海外で研究者になる」を読んだ、という日本の大学学部2年生のAさんから、進路相談のメールが来た。
なかなか熱い内容だったので返事した。
やりとり(編集済)をここに載せます。
Aさんも快諾済です。

大学の教授職を目指しています。
自分も海外で研究者として働いてみたいと強く思いました。
大学を退学して、海外の大学に入り直そうかと考えています。
本でも触れられていた、英語が堪能であることが面接、論文、研究費獲得等において有利であることを踏まえて、若い今の時期から海外で過ごしたいと思いました。
アメリカやイギリスは金銭面や入試制度の理由で難しいので、オランダかスウェーデンの大学を考えています。
自分でお金を稼いだ経験も乏しいのに親等から借りることは申し訳なく思うので、この春に大学を退学して1年間働くことも考えています。
そうすれば金銭的な面でも問題なく入学できると思うのですが、そのあとに入学するとなると、中退しないで今いる大学を卒業して(どこかで)博士課程を取得するのと比べて2〜3年ほど遅れます。
遅れるデメリットを考えると、早く海外に行くことと、今いる大学を卒業することのどちらを優先させるべきでしょうか?

これは答がないですね。
日本でストレートで博士を卒業すると27歳です。
そこから1年遅れ、2年遅れ、と数えることが日本では多いと思います。
しかし、海外でそれを気にする人はあまりいません。
海外PI(=海外の大学教授系の職)就活戦線でも関係ないと思っていいでしょう(もちろん、10年遅れとかだったら影響すると思うけど)。
なので、29歳や30歳までに博士をとろう、と考えでも十分ではないでしょうか。

あと、一般論だけど、Aさんが大学を退学・休学して1年で稼げるお金の量は、大きくないです。
100万円、200万円貯めても大きくないです。
オランダやスウェーデンは素敵な国だと思うし、学費がタダなら(私は知らないです)それに越したことはない。
でも、生活費を自分で出すなら、100万円だと1年ももたない?
学士号をまだ持っていない人が日本で仕事をして貯金をしても、海外での大学卒業までお金が足りるのかな、と正直懐疑的に思います。

博士課程は、学部と修士課程をどの国で学ぶかは関係なく、アメリカの大学に入学する予定です。
親は、今の大学でも十分学べるし、大学院で海外に行ってもいいのでは、と考えています。
自分も、日本の慣れている環境で学ぶほうが吸収も速いと思いますが、将来海外で働くとすると、早いうちから海外に行くのは大きなメリットだと感じています。

なるほど、全て腑に落ちます。

どの程度のメリット・デメリットがあるかは自分ではまだ把握できないのですが、増田さんはどのように感じますか?

イギリス、アメリカで学生と接していて感じることなど、些細なことでも教えて頂けるとありがたいです。

オランダやスウェーデンは学部の教育を英語でやってるのかな。
私は純粋に知りません。オランダ語やスウェーデン語だとすると、きついでしょう。
あとは、学費と生活費ですね。最低限大事なことは。

僕だったら、あと2年くらいの学部生活を日本で「すごく」有効に使って、アメリカの大学院の博士課程にいかに入るか、に注力する。
学部をAさんの今の大学で卒業するとして、

  • いきなりアメリカのどこかの大学で、博士課程学生として雇用してもらえる。
  • 大きな費用がかかるけど海外の修士号を1年または2年(国による)で取って、それを武器にアメリカのどこかの大学で博士課程学生として採ってもらえるか。
    この選択肢の場合、お金の問題はある。
  • 日本の上位の大学の修士課程に入学して、修士号を取る。それプラス強いCV(履歴書)を武器にアメリカのどこかの大学で博士課程学生として採ってもらえるか。日本の学費が安いので、総費用は安い。

    この3つのどれかを、私なら考えます。

    私はアメリカに来て学生の選抜とかも知るようになりました。
    審査側は、まず、学部のGPA(成績)はよく見てるように思います。

    学部(や修士課程)のGPAが良くて、願書の研究計画書もよく書けている、とします。
    しかし、Aさんの大学は、海外では知られていないし、そもそも、Aさんは国際的にはどういうつながりがあるんだろう、と受け取られると思います。
    色々な国の人がうちの大学の博士課程に応募してくるときもそうです。
    GPAが高い外国人候補者は多くいるのですが、英語力、適応力、色々なものが謎すぎるのです。

    しかし、そこに、海外、特にアメリカならアメリカにいる大学教員(海外にいる日本人の大学教員もそれなりのプラスにはなるでしょう)からの推薦状が1, 2通あると風景ががらりと変わります。
    それに加えて、国際学会(あるいは小さめのワークショップでもよい)で発表した、1本の論文の著者に名前が入っている、となると評価は一気に上がってくると思います。そうなってくると、少なくとも出身大学の影響は薄れてくると思います。
    とくに、筆頭著者の論文が1本でもあると強い。

    これらを踏まえると、

  • 成績をとにかく良くしておくこと。Aが何個、Bが何個、というのがそのままGPAになる、といって大体正しいです。
  • 研究の経験を本気ですること。日本だと、学部生が研究する仕組みがあまりないのが辛いですね。正直、Aさんの大学だと、先生がさほど学部生の研究教育に熱心でない、あるいは先生本人がさほど研究できていない、という場合も結構あると思います。どうしたら研究させてもらえるのか。これは正しい人につけば、日本国内でも可能。
  • 海外の大学教員に推薦状を書いてもらえるようにするには、どう動けばいいのか。私の本の中では、中国人の学部学生が自費でサマー・インターンをしにアメリカの大学に行くという話を紹介しました(インタビューした先生の1人が話してくれた内容です)。これは、大きな財力なしにできます。
  • あと、海外PI就活の本はあまりないけど、海外大学院留学の本は多くあるので、読むとよいです。

    私もアメリカに来て半年に過ぎないので色々誤りもあると思いますが、参考になれば幸いです。