理論研究は,多くの場合アイディア勝負である.
プロジェクトの種を1つ考えついたとしよう.でも,うまくいっても大きなインパクトがなさそうな場合には,そのプロジェクトの工程をどんなにうまく速く実行できたとしても,結果はたかが知れている.論文にはなるだろうが,いまいちだ.最初に考えついた箱の大きさが勝負なのだ.
アイディアは,プロジェクトの個別工程を実行しているときにもしばしば必要になる.この意味での良いアイディアは,成果を改善したり,成果にちょっとひねりを加えてさらなる面白さを生み出したりするだろう.小さい改善案が,思わぬ方向に発展して大きな華を咲かせることもある.
私が(主な)生業とする学術研究に限られない.アイディアが主戦場である職は多くある.どう営業を工夫して売りこむか,どういう紙面を作ると自分の雑誌の読者を掴めるか,などなど.
また,学術研究なら何でもアイディア勝負というわけではない.とにかく毎日実験する粘り強さが成果に直結しやすい場合,プログラミング技術がものを言う場合,たくさんの人と大規模な装置を動かして成果を得る場合,など色々ある.
とはいえ,今回は「アイディア勝負」の話をしたい.
どうやったら優れたアイディアを思いつけるのだろうか. 「集中して考えられる時間を,細切れではない形で確保する」というのがよくある答であろう.しかし,そんなことは,多くの人ができる限りでやっている.
同じ長さのフリータイムが与えられたとき,どういう環境で考えるとアイディアが思いつきやすくなるのだろう.短時間で良いアイディアに至れば,労働時間を減らせる.浮いた時間を,次のアイディアを考えるために使ってもよい.
業務効率化とは使い古された言葉だが,クリエイティブな部分に効率化の考えを取り入れたい.長時間だらだら仕事すると効率が悪いのなら,長時間だらだら考えてもアイディア産生の効率が悪いはずだ.クリエイティブ系の話になるほど「時間をたっぷり使って自由にやる環境が一番よい」で終わってしまってないだろうか.
幸い,私は個室で働いている.では,人を入れずに部屋の中でひたすら考え続けるのがよいのか? どうもそうではない.半年くらい色々な行動を試し,どういうときにアイディアが思いつきやすいのか,思いつきにくいのか,の記録をとってみた.理由はわからないが,私にとっては以下の状況がよいようだ.
- 午後よりも午前,特に朝 ← これは多くの啓蒙書などに書いてある
- オフィスで,お茶を入れているとき
- プールで泳いでるとき
- (たまに)六本木にサルサに行くときの,僅か15分の地下鉄の中
- 学会で講演を聞いたり人と雑談したりしているとき ← 学問的な刺激を得るので,自然
はずれなのは,以下の状況である.
- ジョギング ← 疲れが激しく,考えるどころじゃない
- 水泳,サルサ,ジョギングなどのどれかに関わらず,運動後の爽快な時間帯
- とりあえず,(有給をとって)平日の午前中にマン喫に行ってみた後 ← 1回しかやってないので,よくわからないけど.とはいえ,私は特にマンガファンなわけではなく,2回目をやる予定はない.
- 散歩
- オフィスでじっくり考えているとき
- 家でじっくり考えているとき
書いてみて,やや衝撃を受けた.自分の思考タイムの大半は,はずれの最後の2つ(オフィスと家)に費やされているではないか.改善しなければ!
当たりの方を見ると,「朝」はよいとして,それ以外のものは,お茶入れ以外はあまり実行できない.お茶いれも夏はやらないし.泳ぐよりもジョギングの方が好きだし,今の生活だとたまにしかサルサに行けない.学会も頻繁には無い.研究のために,ジョギングをやめて水泳に切り替えるべきか!? いや,ストレスにつながるので変えません.運動はやりたいのをやるがよろし.
心地良い環境は,人によって異なるはずだ.すると,私がなすべきは,他人から成功事例を集め,自分でやってみて,自分の勝ちパターンを見つけることだ.というわけで,研究者が集まったある場所で聞いてみた.以下のような事例を頂いた.研究者にかぎらずアイディア系の仕事の皆様,他の勝ちパターンはありますか?
- オペラを聴いてるとき
- 山登りをしてるとき ← やってみよう.
- 大して面白くはないが内容が全く無関係ではない学会の最中.面白かったら講演に聞き入ってしまう.無関係なら内職したり退席したりするので,日常と変わらない.その中間だと,他人の講演を「つまらないな」と思いつつ,講演に関連した独自の思考が始まる.思考は我道を行き,いつしか講演内容とは関係なくなるが,実は良いアイディアに到達してたりする.なるほど!
- 新幹線の中 ← 自分は車内アナウンスが嫌いだけど,この方は気にならないそうです.のぞみの新横浜〜名古屋間だと良いかも?
- 寝る直前
- 料理中 ← なお,この方は男性です.
- 笑ってる状況 ← 笑いで病気を追い払う,というインドのクリニックの話を読んだことがある.笑いのパワーはすごいのかも.新宿ルミネの吉本でも行ってみようかな.
- 片道10キロ超の自転車通勤中 ← 車道ですよね.交通安全に気をつけて...
運動第一.とりあえずジョギングに行ってきます.