2004年7月11日

カレー星人の国

インドを旅すると好きか嫌いの両極端のどちらかに落ち着くという。自分の周りには、気に入った派が圧倒的に多い。パックツアーに参加せず、途上国をのほほんと旅するタイプの友達が多いというのはある。聞く話が全て親インド的なのは、嫌いになった人はわざわざ他人に語らないというだけの理由かもしれない。

今回はインドへ出張。インドに出張がある職業とは、かなり特殊?農村開発、国際教育、保健衛生など「途上国」関係を想像されるかもしれない。しかし、インドは科学の国でもある。数学・物理など理系の科学のレベルは極めて高い。社会科学に目を向けるとノーベル賞経済学者アマーティア・センなどを輩出している。南部の都市バンガロールを筆頭にハイテク産業も発達し、インド発のIT技術やインターネットビジネスモデルの成功は後を断たない。中国同様、人口十億の頂点は素晴らしく切れるのだ。ちなみに、今回のミッションは学会参加。

インドは案外遠い。地図の上ではヨーロッパやアメリカ大陸への距離の半分くらいに見えるが、実は北欧やアメリカ西海岸までと同じかそれ以上の長旅。丸い地球を平らに引き伸ばして地図に描いてるからだ。地図の上での飛行機は、北極や南極の近くではすいすい進むけど、赤道に近づくほどちょっとずつしか進まない。飛んで見るまで気づかなかった。。。

そんな長旅、しかも一人での出張にはややうんざりだが、今回はわけが違う。インドと言えばカレー。カレー星人の俺はそれだけでわくわくする。

行ってみると、予期せぬことがたくさん起こって、そういう意味で予想通りの収穫だった。ただ、参った場面もたくさんあって、インドが好きか嫌いかはすぐに答えられない。今回はカルカッタとデリーという人口 1000 万超の巨大都市だけだったので、田舎も見なきゃわからない。ただ、旅の驚きはやはり新鮮。その鮮度は今までのどの訪問国よりもすごかった。旅なんて、人生のネタ作リに行ってるようなもの。そんなわけで、驚きを列挙して旅の感想ということにしましょう。

インドは正直とても汚い。衛生の概念はなさげ。石鹸すら嫌な匂いがして、手にくっついてとれない。下水が発達してないので、雨が降ると道路がすぐ池や河になる。車の排ガスとゴミで街はとてつもない匂いがする。日本ってやっぱすごいね。

人をだまして金をとろうとする人は多い。タクシーの運転手が 2 回分課金しようとしたり、買ったペットボトルの水が最初から開栓されてたり(嘘の水と入れ換えていた)、頼んでもないガイドを強引に買って出たり、警察のふりしてカメラ持ち込みに罰金をとろうとしたり、お釣りに偽札を混ぜてきたり。今回は痛い目には逢わなかったのでいいけど(水は飲む前ぎりぎりで気づいた)、暴力的なところもあって旅の気分を悪くさせる。まあ、相手は誰でもよくて、個人的に恨まれてるのではないことはわかるけど。慣れかな?それに、大半の人は良い人であることは言うまでもない。

研究所(企業でいうと開発部署のようなものかな)のゲストハウスに泊まったけど、これはすごかった。鍵が内側からかからない。トイレが水洗なのはインドにしては合格だけど、流れない。 1 日に 5 回くらい停電。よって、学会発表中も停電になって、しばしばパソコンの発表中に闇が訪れる。リスやらトカゲやらがたくさん室内に出る。幸い蚊に刺されない体質なので、そこはしのぐ。水もよく止まる。出たとしても汚いけど...

停電といえば、街中の信号機もよく停電する。大通りの交差点で停電が起こると大変なことに...!インド人も、そういうときはさすがに強行突破しない。というか、他の車が邪魔になって突破できない。警官が到着して手信号してくれるまで待つ。

ガードマンがいるレベルの建物、空港、いい感じの家の庭、大学などでも、装飾のお金はやっぱなかったりする。そういうときには花をひたすら飾る。花は水があれば無料で増える。すてきな知恵ではありませんか。

学会発表してようが、ハイテク会社に勤めてようが女性は基本的にサリーを着ている。最初はびっくりするが、各女性はサリーを複数持ってるわけで、着こなしや生地を観察するのは楽しい。進んだ都市に行くほど、ジーンズにタンクトップの若い人も増えている。ちなみに、女性の社会的地位は思ったより高い気がした。大学では、教授クラスまで含めて日本より女性の割合が多いくらい。ただ、夫が死ぬと妻が火に飛び込んで殉死する習慣のことがあったり(今もどこかで行われているかは、俺は知らない)、地域差はあるのでしょう。

ヒンズー教にのっとって、牛は神聖と聞いたことがある。しかし、それはウソだ!インドの牛は野良牛。そこら辺にたくさんいて、草やゴミを食べて生きている。神様がゴミを食べてたら、幻滅ではないか!犬好き以外は誰も野良犬を構わないように、インドでは誰も野良牛を構わない。日本で野良犬がいたら自転車や車がよけて通るように、インドで野良牛がいたら人々は単によける。なぜ日本の野良動物は犬と猫くらいしかいないんだろう?なんて、しょうもないことを思った。インドのような野良牛をはじめ、野良馬とか、野良鶏とか、いないのかね。飼ってる人もいるんだから。昔はこれらの野良もいたのかな。ただし、野良熊はちょっと困る。

少し古いが、インド映画「躍るマハラジャ」をご存じですか?テレビをつけると各チャンネルであれをやってる。ウケすぎ...

地元の学生がインドの誇りを 2 つ語ってくれた。1 つは、インドはヒンズー教の神に守られてた神聖な国であること...これは俺の守備範囲ではないので肯定も否定もせずに放っとこう。もう 1 つは多様性。インドはでかい。色々な民族が住む。食も、着こなしも、言葉も土地ごとに違う。インドはたくさんの通用語があることで有名だ。カルカッタ人とデリー人でさえ、基本的には英語でしか意思疎通できない。英語が母国語ではないのに、インド人同士が英語で話してるのはやや不思議だ。そして、多様なので違ってあたり前。言葉がわからなかろうが、外国人が来ようが、宗教が違おうが、驚かない。この包容力はすばらしく、島国日本にはなかなか真似できない。アメリカ以上の人種のるつぼ!?

やっぱり毎食カレーだった。本望。でも、しばらく見たくない(笑)