2016年9月24日

「帰国」する大学教員専用の研究費

大学の研究者は、主に国から競争的研究費を(競争の結果として)得て、研究を推進している。
日本では、「科研費」というのが、多くの研究者にとって一番主たる研究費の源である。
規模・分野別に様々な「科研費」の公募が毎年出ている。

その「科研費」で、下記の公募にびっくりさせられた(昨年 = 2015年からあったらしい)。

その名も「帰国発展研究」

応募資格(紹介サイトはこちら)の主な部分を私の言葉で書いてみる。

  1. 日本国外の大学などで教授や准教授相当の職についている。
  2. 日本国外に居住し、日本国籍を有する。
  3. そして、日本に帰国する=日本の大学に教授や准教授で就任するなどする。
3は、項目立てて書いてはいないが、実質そう読める。

そして、採択された場合に与えられる研究費は、かなり大きい(最大5,000万円)。

呼び戻そうということかな?

日本は今後特有の難しさもあるかもしれないので、若い世代は、好みであれば欧米や、元気である東アジア、東南アジア、オセアニアの大学で教員職(研究+教育)をとる人が今後増えてきていい。個人的にはそう思う。
しかし、この公募の考え方は逆なように聞こえる。
「優秀な日本人研究者は帰国して下さい」とも読めなくもない。

説明サイトには、この制度が「若手研究者の海外挑戦の後押しにつながることも期待」と書いてある。
しかし、研究者(ビジネスもそう?)の海外挑戦とは、失敗したら日本に帰ってくればいいという安全パイを持って外に出かけていくのではない。痛手も覚悟する。日本の研究職には戻ってこれるかもしれないし、戻ってこれないかもしれない。

例として、日本の所属大学から一年間の研究用時間(サバティカルと言う)を得て外国の大学で一年間て研究してよい、という制度が多くの日本・海外の大学にある。私の大学にも、これで来る日本人研究者が思いの外いる。
ただ、これを「海外挑戦」とは呼ばない。
本当の海外挑戦では、挑戦して失敗すれば、日本に帰る場所はないかもしれない。
ただし、失敗しても、人生としても、研究者としてもおしまいというわけではない(ここがよく勘違いされる)。2回目で、研究や研究外で輝く人はたくさんいる。
それに、「海外」に行かずして研究等が素晴らしければ、それで良い。

というか、日本人研究者に海外に行くことを促してるのか、海外から帰国することを促してるのか、分からなくなった。
ちなみに、両方促す、というのは成立しない。
なぜなら、募集要項1にある、海外で教授・准教授になる、というのは相当に大きな決定・労力投資だからである。
数年後に帰国する、という計画のもと海外で教授・准教授になろう、と活動する人は、まずいないように思う(結果的に帰国するかどうかは別として)。

また、国籍で申請資格を制限しているのは象徴的。
もしイギリスに同じ制度ができたら、私を含めた外国人教員は大変なショックを受けるだろう。
研究や高等教育が世界でボーダーレス化しつつある、という流れとは逆かもしれない。

ここまで書いたが、この研究費制度を批判しているつもりは無い(自分、応募資格あるし)。
ただ、違和感の共有が目的でした。
他の国の人(特に研究者)に話したら、おそらく理解不能だろう。
日本にはそれだけ潤沢な研究費があるということ? なんだか平和な話だー。