2003年2月25日

パーフェクトスイス

日本はリッチだ。うまいものをたくさん食べられるし、時間さえあれば海外旅行もたくさんできる。日本に来る外人はみな「日本は物価が高い」とぼやく。旅行者も留学生も、節約かやけくその選択を迫られる。

しかし、世界は広い。日本より金持ちで日本より物価が高い恐るべき国が存在する。それは、スイス。

スイス人は上品だ。イタリア人よりマナーがよく、ドイツ人より愛想があり、よそ者にもやさしい。フランス語のしゃべり方もフランス人より物静か。

スイス人は知的だ。知能労働職についてる人が多いし、浮浪者もほとんどいない。観光客への対応も抜群によい。英語もよく通じる。

スイスは多言語国家だ。スイスジャーマン(ドイツのドイツ語とかなり違う!)、フランス語、イタリア語(少数派)、ロマンシュ語(さらに少数派)の 4 つが公用語。研究室の人達とアルゼンチン映画を見たら、映画はスペイン語で、フランス語とドイツ語の字幕がついてた。

東側のドイツ語圏は政治と商業の中心。フランス語圏の人に言わせると、自分勝手な人が多い。中央政治家の外交・経済政策が下手くそで国勢が悪化してるからむかつく、という不満も聞いた。ただし、ゴミの規則守るとか、車より電車を使おうとするとか公共心は高い。

西側のフランス語圏は文化の中心。各種コンサート・美術館・ギャラリーなどがいたる所にある。自分が滞在した Lausanne(ローザンヌ)では、滞在中に世界バレーコンクールがあって日本人が優勝したらしい。人々はリラックスしている。ドイツ語圏の人がこっち側をどう見てるかのかは知らない。いずれにしても仲が悪い。

こんな環境のせいもあって、何か国語もしゃべる人がごろごろいる。スイスに住む外人もしかり。英語、フランス語、ドイツ語の 3 つを話す人はよくいる。自分の前に座ってるスペイン人の研究者は、フランス語で生活し、家族とスペイン語で話し、イタリア語で友達とくっちゃべり、英語で仕事をするので最低 4 つは話
せる。研究者は教育水準が高いせいもあるけど、市井の人もすごい。車掌も色々な言葉を話しながら検札してる。もっとも、ドイツ語とフランス語はそれなりに違うので、マルチリンガルな環境で育ったわけじゃない人はスイス人でもそこそこ苦労はしてる。

スイスは綺麗だ。建物は歴史があり、しかもおもちゃのようにかわいい。道も公園もよく整備されている。電車も乗り心地よく清潔でしかも速い。

スイスはおいしい。チョコレートとチーズは国民食で、どこでどんなのを買ってもはずれがない。チーズフォンデュのゆかりの地でもある。甘すぎずおいしいフルーツのタルトもたまらない。スイスオリジナルの料理はやや種類が少ないが、おいしいイタリアン、フレンチ、アジア料理などがたくさんある。また、ローザンヌはアルプスの正面にあるので、水道水は我がホームタウン八王子よりおいしい。かの Evien(エビアン)の美しい街並は大学から見える。

スイスはぬかりがない。子ども・老人・障害者に配慮した町作りがされている。人々の理解もしかり。また、眼鏡を電車で失くしたら帰って来た!ちゃんと駅に遺失物係があってアイテムに札をつけて管理している。日本だと当たり前に思えるかもしれないけど、そんなことが期待できるのは日本、スイス、ドイツまで。

スイス人は余裕がある。他のヨーロッパ諸国同様、働きすぎない。労働者の権利がしっかりしていて、日本のように、夜中や土日に実質的に無給で働かされることはあり得ない。仕事だけでなく、映画、ビール、スキー、などを楽しみ、大切な人と時を過ごすことが幸せとされている。日本のように、「そうしたいけど、仕事が...」という理由で、5 年も 10 年も幸せを先延ばししてしまうことはない。今の余暇を大切にする。1 ヶ月、3 ヶ月の長期休暇もよくある。

労働者の権利が確約されすぎてて、土曜の夜と日曜はレストラン以外の全ての店が閉まる。スーパーもマーケットも閉まる。週末こそ客入りじゃん、という考え方はしないらしい。週末やってるレストランを見つけるのさえやや難しい。なので日曜日は退屈だ。Geneva(ジュネーブ)ほどの大都市でさえ中心商店街に人気がない。何故かスイス人は閉まってる店を練り歩いて(外側から!)ウインドウズショッピングを長々と楽しむ癖がある。気に入ったものがあってもその場で買えないし店員に話も聞けないのでアホっぽい。いずれにしても、東京のネオンと人混みが懐しい。そんな日曜の退屈さにはスイス人自体も不満を持っている。散歩するか、国民的スポーツたるスキーをする。基本的にアルプスだから、車で1時間くらいのところにたくさんスキー場がある。この手の休日スタイルは、家族・恋人仕様である。一人で来るとこれだからつまらん、ぶつぶつ。

話がそれたけど、このように、スイスはちょっと抜けてるけど完璧だ。人も愛想があるので、基本的に不満はない。でもひとつだけある。

全てが高い!! 350ml の缶ジュース 180 円、カップサラダ 500 円、マックのセット 900 円。学食も 800 円を下回るとカロリー補給に支障が出て、何も気にせずに選ぶと 1300 円とかする。外のレストランが倍かそれ以上することは言うまでもない。

食べ物だけではない。誕生日カード 500 円、ボールペン 250 円、スキーレンタル 1 日 5500 円など挙げればきりがない。基本的に下級品を安く売る店がないので、傘とかスリッパとか、俺にとっては使えれば何でもいいようなものが 1000〜2000 円平気でする。ビニール傘を売っておくれよ。ああ、100 円ショップが懐しい。スペインにもあるのに。

高いのは、経済発展のせいでもあるし、日本みたいに政治が腐っているので金が闇に使われて税金や物価にはねかえって来るせいもある。政治が保守的で政治家と金持ちの力が強い点は、何気に日本と似ている。

逆に金があれば何でもできる。物やサービスを買えることはもちろん、政治力を手に入れたり、徴兵をまぬがれることさえできる。誰も文句を言わない。良く言えばスイスは洗練された国で、悪く言えば勝ち組のための国である。ここに 1 ヶ月もいると日本もたいしたことないな、という変な自信がつく。でも、それは経済感覚が麻痺したゆえの自信なので危険だ。滞在したいなら、金持ちになってから家族で来ましょう。旅行は...してみる甲斐あるよ。謙虚になれるかも!