2002年6月25日

イタリアンコース

イタリア人はよく食べる。

朝食はそこらの座れる店(一般にバールと言う)で菓子パンとエスプレッソ。

昼食は遅めにパスタ、リソット、肉料理、ピザなど重量級。量も多く、おしゃべりと食事にかける時間も長い。日本でも大人気のレパートリーが、本場のチーズとトマトで更にパワーアップ。日本で出る味を遥かにしのぐ。

ゆったりしすぎて午後がはかどらない!その通り。定時までパリパリ働く人もいるが、平日の午後から外でケーキし、茶をしばく人が多い。今回の旅行の公用(名目)は学会。午後は...想像にお任せ。

夕食はさらに遅くてさらにでかい。学会には公式ディナー(バンケットという)の日が 1 回ある。8 時からホテルのデッキで立食。パスタはないが、海産物の揚げもの、ローストビーフ、中華、果物、ワイン、シャンペン。飲んで食ってうむ合格、と思った矢先。

「ディナーは食堂で出るからまだ食べすぎないように」

9 時。着席してディナー本番が始まる。学会のホテルが高級なのではなく、外で食べたとしても夜はコースで取るのがイタリア式。前菜、パスタ。立食を楽しみすぎた自分はもう十分。なのに、パスタもう一皿、肉料理。イタリア人は談笑しながら余裕で皿を平らげ、ワインの瓶を傾ける。それがイタリア式。出てきた飲み物は既に 6 種類。水以外は全部アルコール。繰り返すけど、一級レストランじゃないよ。

11 時。学会で疲れて眠い。帰ろうとしたら、とんでもないものが来た。プディング 1 皿。どーーん。さらに、アイス 1 皿どーーん。食えるかアホー。栄養に勝るものなし、そんなポリシーを持つ自分も健康を省みてやめとく。イタリア人はよく食べる。甘いデザートで締める、これぞイタリア式。中年太りがひどいことはいうまでもない。

イタリア人はサッカーが好きだ。2002 年ワールドカップ。燃えないわけがない。試合が始まるとテレビに釘づけ。ホテルの従業員は白いスーツでテレビの前に起立。働けコラ。学生も教授も学会から抜け出してテレビの前に集合。勉強せいコラ。とはいえ、自分も日本対ベルギーを見たので人のことはいえない。

イタリア人はオーバーアクションだ。自分もしばしばオーバーアクション属に入れられるが(納得いかない)彼らには敵わない。今日は、イタリア対クロアチア戦。自分はボスとテレビからはほど遠いロビーで仕事をしていた。

「あー」「わーん」「きゃーー」「うぉー」

俺 「叫んでますね。点が入ったんですかね」

先生「イタリア先制か」

しばらく後

「あー」「わーん」「きゃーー」「うぉー」

俺 「また決めたみたいですね」

先生「さすがイタリア調子いいな」

「あー」「わーん」「きゃーー」「うぉー」

俺 「いつも大げさに騒ぐから入れたのか入れられたのかわかりませんね」

先生「...」

試合終了。イタリアは 1 対 2 で敗れた。

開催国日本でワールドカップの盛り上がりを見られないのは残念かとも思ったが、ヨーロッパの熱狂を肌で感じられるのはうれしい。そして、学会には各国から人が来ている。ヨーロッパ、日本、アメリカなどサッカーの盛んな国(アメリカでもサッカーが認知されつつある)が多く、それぞれ自国への思い入れがある。参加者の最高齢は 8x 歳のウルグアイ人の大御所だが、今後の研究とウルグアイ対フランス戦どちらが大切かは、彼の目の輝きが語っている。

ところで、学会はポンペイ遺跡への半日ツアーを組んだ。ほかの研究者と話す機会でもある。ワールドカップは世界の話題。研究ネタや女ネタ(?)よりよほどよい潤滑材だ。サッカーを世界平和に生かす活動をしてる人もいることだろう。

俺 「日本では盛り上がってます。あなたの国は出場してますか?」

相手「チュニジア。日本と同じ組」

世界平和は難しい。

学会の後に、他の遺跡も訪れた。というよりローマやフィレンツェは街自体が巨大な遺跡だ。齢 2000 を超える建造物やあちこちに残っていて、新しい建設も街並みを保つように行われる。石造りの外観は残して中だけ改装とか、建物の高さ規制とか。博物館に入場制限がかかるほどの混雑と車の多さにはうんざりだが、それを補ってあまりある歴史と美しさがある。日本にも素敵な歴史があるが、イタリアは民衆が歴史を大切にするところが違う。

それにしても、イタリア人はよく食べる。街中でも昼食と夜食のでかさは学会のときと変わりがない。しかも間食が激しい。昼は暑いせいもあって、みんながみんな甘〜いアイスをペロペロなめながら歩く。ちなみに、ジェラートはここではアイス一般を指すらしく、日本のジェラートほどの粘り気はない。あれはイタリアの特定の地域のものだろう。老若男女問わずプディングやケーキも大好き。胸ボン、腰ボンの女性には、15 年後に腹ボンがもれなくついてくる。お肌のまがり角は 20 歳、そして新陳代謝のまがり角は 30 歳。

もう食いっぷりは見飽きた。観光観光。ローマの中には世界一小さい国家、バチカン市国がある。日本の「市」より格段小さく、「ローマ市バチカン町国」くらいだ。国の大半はローマ法王の根城、サン・ピエトロ寺院が占めている。これはでかい。キリスト教怖るべし。イタリア人はやはりサッカーが好きだ。その大教会の前では子どものミニサッカー大会をやっている。小さいコートを走り回る子どもたちに外から眺める親や観光客。そんな日曜日のひととき。

かの有名なコロッセオ(コロシアム)に向かう途中。何やら物々しく軍人が建物を守っている。白馬にまたがってるのもいるぞ。来賓?交通規制もかかるが、徒歩だから無視。腹が減ってるんだ!カフェで遅い朝食。そこらじゅうのカフェは軍人で占められていておぞましや。おーいまだ 10 時だぞ、勤務中だろ。イタリア人はよく食べる。勲章のつらなる軍服を着た彼らが馬をつないでまで食べたもの。それはアイス(=ジェラート)だった。みんなでペロペロペロ。

そんなイタリアは、経済力では次の訪問国デンマーク・イギリスにかなり劣る。でも、食では両国を寄せつけない。

洗練された福祉国家デンマークは全てに無駄がない。国家の成熟と人の少なさからくる余裕と平和。そして、世界に誇るエロティカ博物館がある。興味はなかったが、ガイドブックにまで紹介されてるので行ってやった。すごすぎる...そんなデンマークはドイツと同じくじゃがいもとビールの国だ。インドレストランで、ご飯やナンの代わりにじゃがいもメインに出すのはやめてくれ。

イギリスは歴史と発展がマッチした大国だが、アメリカと同じくオリジナルの食文化が乏しい。名物フィッシュ&チップスなんて、ケンタッキーと一緒だよ。しかも高い。仕事先の人に聞いてみた。

俺 「ケンブリッジでうまい飯って何?」

メキシコ人院生「インドもの」

俺 「(地図を見せて)この辺でいい夕食勧めてよ?イギリスっぽいもので」

ドイツ人研究者「ここのインドか、ここの中華か、ここのイタリアン。あ、ここのうどんもいいよ」

俺 「...」

イギリス人 食へのプライド ないらしい

食、サッカー、歴史、オーバーアクション。そんなイタリアはみんなの期待を上回ってくれる。