旅。
出張でよく単身外国にのりこむ職業柄、しばしば考える。
なぜ人は旅をするのだろう。
どうして飛行機に乗ってまでして遠い国に行くのだろう。
1 有利を求めて。
日本より安いブランド物。
日本にはない食べ物。
日本より安いダイビング。
日本では見られないミュージカル。
便宜ともいい、感動が伴うこともある。
2 刺激を求めて。
「人間は不満足な豚である」と、コリン・ウィルソンという哲学者が言ったらしい。われわれ、やはり欲望と新鮮さを食べながら生きてる。平らな安らぎもよいが、刺激のスパイスは生活を豊かにしてくれる。違う文化に育った人の行動、考え、振舞い、言葉、家、食べ物。「おいしい」、「美しい」、といった「評価」だけでなく、発見、共感、反発、なんて感情を楽しむ。そんな驚きは嬉しく、パワーをくれる。帰った後も、自分とは所詮違う他人の気持ちが少しはわかった気がする。
3 抱擁を求めて。
どの国も人から成る。新しい人と出逢えば、友達になったり認めてもらえるかもしれない。人間なんてどうせ弱いのだから受けいれてもらって何ぼじゃ。たまたますれ違った人の小さな親切。時間を共有した人の大きな優しさ。文化が違うから受け入れられにくいよ、外人は深い関係になりにくいよ、とも言う。でも、多くの国が、日本よりは異文化を大切にする。それに、日本人同士のつきあいってそんなに深いだろうか。
出張は、訪問地と目的がはっきりしすぎているので、1と3はたまたまそういうこともあるが、期待はしない。2:やっぱ刺激だよ刺激、うひょ!
今回の訪問地はアメリカとカナダ。アメリカに1年住んだし、冬のカナダ・オタワも去年行ったので、どうせ発見はないと思ってカメラすら持ってかなかったが、失敗じゃった。カメラは持ってなかったというのもある。とにかく、撮りたくなる風景、知ってるはずの土地での驚きなどいくらでもある。そんな驚きをいくつか。
カナダの首都オタワ。2月は零下20度が標準。今回は暖冬で、零下10度か1桁になった。慣れてくると、マイナス1桁はかなり暖かい。彼らは、摂氏プラスになると、春気分になってうきうきして半袖で外にくり出す。去年は、ありえない...と思ってたが、今年はその気分が微妙にわかる。慣れとはすごい。
でも、暖かいといってもマイナス2桁の世界。やっぱ寒い。そんな中、自分の期待を裏切るカナダ人の動きを間のあたりにすると、何だか楽しくなる。
2月は冬祭り。マイナス何度だろうが、週末は家族や恋人と屋外のバンドを聞いたり雪のモミュメントを楽しんだりする。冷え症の俺にはありえない...15分を越えると何だか息が苦しくなる。
現地で一緒に働いてた人達にハワイアンパーティに招かれる。やつらは「今日は暖かい」と言ってアロハシャツ+コートのみで会場に向かう。マイナス5度。アロハシャツはもちろん長袖じゃないよ。
テレビをつけると、ホームレスの報道をしてる。確かに、こんなに寒いのにオタワの路上にも物乞いがいる。
ニュース:「オタワ当局は、マイナス15度以下になると、ホームレスの安全を考慮して臨時施設に収容します」
じゃ、マイナス14度だったら放っとくんかい!怖ろしい国だ。
次の訪問地、ニューヨーク。マンハッタン、自由の女神、WTC(ワールド・トレード・センター)、ミュージカル、ウォールストリート.....そんなもの全部うそうそうそ!ここは、ニューヨーク州イサカ。車でニューヨーク都心部から5時間。雪と平原以外何もない。地平線のかなたが本当に見えるのだが、マンハッタンはやっぱり見えない。
最初に行ったコロラドもそうだけど、アメリカはやはりでかい。人口は日本の倍。しかし、面積は25倍。そして、アメリカはほとんど田舎だ! LA(ロサンゼルス)も SD(サンディエゴ)も超百万都市だけど、「イナカ」だ。都会(=八王子)育ちの俺は、日本がというより車なしでも手軽に遊べる都会が恋しくなる。人の密集とはすばらしい。
日本着。ひどく疲れている。しかし、まだ驚きは終わらない。
リムジンバス乗り場へ。バス停の係(日本人)が英語で話しかけてきた。そんなに日本人っぽくないかい!そのまま従ってもよかったが、さすがに悔しいので「日本人です」、と告げようとした。英語がうまいわけじゃないが、3週間使わなかった日本語はすっかり衰えていた。
俺:「日本語です」
バス停のお兄さん:「....」
彼は、いぶかしそうな顔をした末、1 秒後には日本語の下手な外国人ががんばって日本語を話そうとしているものと理解した。そして、ゆっくりとした日本語に切り替えてきたのであった。
「おにもつはーーーー、1 つですかーーーーーー」
ジェスチャーつき。「1 つ」は人指し指をたてる。これ世界共通。うきーー!!
1 週間後、さすがに日本語はもとに戻る。よく会う友達にたまたま会った。
「直紀の日本語って、英語を直訳したみたいな日本語だよね」
...ダブルショック。立ち直れるだろか...
驚きとショックは人生の糧。