2025年7月1日

アメリカの年金

私の誤解も混じっているかもしれないが、アメリカの大学教員の年金について一教員の立場から紹介する。

日本と(私が5年半いた)イギリスと比べて、アメリカの年金の第一の特徴は個人年金であることである。
日本のように若い世代の支払いが年配世代の年金受給を支えるということがない。
イギリスの大学の年金制度でも、払った分が自分に入ることはなく、日本風である。
アメリカでは、自分のものなので、貯金や投資と同じように、どれくらいの額がたまっていて、将来の積立額がどうなっていくかが透明に分かる。
ただ、それだけだと、単に自分で貯めたり投資するだけになり、年金の名に値しないだろう。実際には、そうではなく、

  1. 自分が払った分程度を、大学が自分の年金に入れてくれる、
  2. 基本的に投資することになっていて(しなくてもいいが)、投資の利息について、引き出し時に無課税となる、
  3. 59.5 歳以前で引き出すと罰則(=非常に高い手数料)がかかる、
という特徴がある。
大学が貢献してくれる量は、給料の何%(例えば8%)と決まっている。このパーセントが、勤続年数が一定年数以上になると 1-2%上がる場合もある。

これはなかなか激しい仕組みだ。ただ、結論から言うと、大学教員にとってはこの仕組みはとてもよく、年金は大学の主要な福利厚生の一つである。

どう「激しい」のか?

まず、全員が年金をもらえると仮定していない。アメリカらしい。結局のところ、自分が払った分程度を勤務先が自分の年金に入れてくれるかどうかが、年金が本当に大きく増えるかどうかの肝である。なので、そういう所で働く(期間が長い)かどうか、によって将来の年金額が相当変わるはずだ。

次に、給料の一定割合(例えば8%)が大学の貢献分である。したがって、給料に比例する大きさで年金額に差がつく。 アメリカの大学では、同じ大学の同じ教授でも学科や業績によって倍くらい給料が異なることが珍しくない(例えば、理系学科の中で、数学科は給料が少ない方だ)。なので、年金額にもそれが反映される。

なお、投資の部分は難しく考える必要はない。基本的な投資先や投資割合が設定されていて、特に意見がなければそれに従って問題ない。投資の方法について個人的な意見を持っている人は、投資先や投資割合を自分で変更できる。基本的には、上下があっても長期的に見れば上がっていく確率が高いだろう、という考え方で投資しておくのである。

年金を増やすもう1つの要点は、早くシステムに入ることだ。
私は、日本から始めてイギリス経由でアメリカに来たので、アメリカの年金システムに入ったのが43歳の時である。もしポスドクの人が 32〜35歳くらいで助教 (Assistant Professor) を始めるとすれば、私は10年位遅い。
貯金や投資の福利の仕組みや、大学分の貢献を考えると、10年の差は大きい。

なお、最後の蛇足として、日本では年金を払っていた(給料から天引きされるので)。しかし、私はもらう権利がないので(規定年数に満たないから)全部捨てたも同じである。一方、イギリスでは、払った分の年金に応じて、イギリスを離れてもある年齢に達すれば年金を受取ることができる。ただ、5年半の勤続で得られる年金額は雀の涙である。